【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第15章 濃紅 - koikurenai -
佐助くんと別れてから、
一人天幕に戻る。
夕餉の準備を手伝おうとしても、姫様はゆっくりしていて下さい、そう言われてしまって。手持ち無沙汰でぼうっと謙信様に渡された着物を眺めた。
「…そんなに好み、その着物。」
「…はい。………って、え?家康さん、」
ふうん、
って少し素っ気ない声が聞こえてハッとする。
何を考えるわけでもなく、
ぼーっとそれを眺めていたから、家康さんが天幕に入ってきたことにも気がつかなかった。
「…軍議は終わったんですか?」
「うん。ちょっと前にね。…真っ直ぐここに来たのに、あんた全然気がつかないから。」
「…すみません。ちょっと、ぼうっとしてて、」
「体調が悪いなら寝ときなよ。」
ただでさえ病み上がりなのに、
明日からは長旅だ。
そう気遣ってくれるのが嬉しくて、頬が緩む。
出会ったばかりの頃は、名前も教えてくれないくらい素っ気なかったけど、思えばいつも家康さんはさりげない優しさをくれていた。
「何にやけてるの。」
「…え?」
「そんなにこの着物が嬉しかった?」
「…違います。これは、…本当に貰っていいのかなって思って見ていたんです。」
「……貰っときなよ。」
牢に入れた詫びだって言ってたでしょ、
そういうのにどこか不機嫌な家康さんに不思議に思いながら、膝に広げていた着物をたたみ直す。
そして、
その横に置いていた彼から貰った反物で作った着物を手に取り、
「…牢にいる間、風邪を引くからと言われたのに、頑なに頂いた着物を着なかったんです。」
「え?」
「弱いと思われたくなかったのもあります。」
「………。」
「でも、この着物を脱ぎたくなかった。」
牢の中で思ったことを話す。
家康さんは少し驚きながらも話を聞いてくれた。