【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第15章 濃紅 - koikurenai -
吹き付ける風が天幕を激しく揺らす。
「…平気?」
「はい。大丈夫です。」
隣に腰掛ける亜子に声をかけても、大丈夫、それしか返ってこなくて思わずため息をついた。病み上がりだし、上杉は牢に入れた相手だし無理しなくていい、と、俺も三成も、もう数え切れないくらい言ったのに、亜子はうんとは言わない。
…上杉のこと、
怪我が少し心配だから
とでも思ってるんだろう。
あの男があれくらいの傷でどうにかなるとは思わない。
「本当に平気…?」
「大丈夫ですよ。それに、…私がこの場にいることが協定の条件なんですよね?」
それならなおさらいないと、
と言う彼女に、もう何度目か分からないため息をつきながら、会いたくないとそう言ってくれたらいいのにと思った。
しばらくして、
天幕の外がにわかに騒がしくなる。
やがて家臣を従えた上杉が天幕の中に姿を現した。
「…戦場以外で貴様の顔を見るとはな、謙信。」
「ああ、全く不愉快で仕方ない。」
信長様との会話に天幕の中の空気が張り詰める。
この会談は、織田軍と上杉軍の協定を結ぶために開かれたもの。こいつがこの場所に姿を現したら、協定の話は決まったようなものだ。それも言い聞かせたはずなのに、亜子はこの張り詰めた空気にどこか不安そうにする。
「まあ良い。…亜子。」
その時、突然
上杉に名前を呼ばれて彼女の肩が飛び跳ねた。
「は、い…。」
「これを牢に忘れていった。」
「…え?」
「お前のものだ。」
そう言って上杉が差し出したのは、何枚ものすごくなめらかな生地をした着物だった。
「…何これ。」
「俺が亜子に用意した着物だ。」
「なんであんたが?」
「…牢に入れた償いだ。」
受け取れ。
そう言われて、受け取らないわけにもいかなくて、そっとその着物を亜子が受け取る。上杉が亜子の同席を条件に出したとき、亜子から牢での扱いを聞いたとき、
なんとなく予想してたけど、