【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第14章 薄桜 - usuzakura -
「なんて顔してるの。」
「…え?」
「別に信じないなんて言ってないでしょ。」
「……っ、」
「あの日の怯えた顔したあんたと、普段のあんたを見てたら、この時代の人間じゃないとしてもおかしくない。それに、」
つきたくて嘘付いたわけじゃないんでしょ。
そう言って優しく私を見る彼に、視界が霞む。
「あの日の俺たちはあんたを疑ってた。突然自分を疑う男たちに囲まれて、うまく口をきけるわけもなかったんだ。…ごめん、」
「謝らないで下さいっ、」
「…この話、信長様も知らない、よね。」
「…はい。」
「そう。」
なら、戦が終わったら信長様にも報告する。
俺も一緒に話すから安心して。
信長様はきっとこの話を信じてくれるだろうから。
そう言って私の頭を優しくなでてくれるその手に、とうとう涙があふれた。
その様子を見ながら家康は、
生活のいろはも分からなくて、疑われて、それでも自分で必死に生きてきたこの子。諦めて籠の中の鳥になることだって出来たのに、自分らしくいたいと、必死に。そんなこの子が俺たちを騙そうとして嘘をついたとは思えない。
この話が本当なのかまだ信じられないけど。
とそう思う。
惚れてしまったから盲目になっているのか。もしこの話が本当なら、家康が気になるのは一つだけだった。
「亜子は…、」
500年後の世に帰りたいと、そう思っているの?
その問いに、
亜子の涙に濡れた瞳が揺れる。
ずっと胸に引っかかっていた、
彼らを騙しているということ。
でも今、家康さんには真実を告げる事ができて、みんなに信じてもらえるかは分からないけど心の中にあるわだかまりが解けた気がする。
だからこそ、心が揺らいだ。
家康さんを前にしたら余計に。
絡まる視線や、
手を伸ばせば触れられそうな体温。
現代に戻ったら、彼の姿を目にすることは出来ない。側で感じることも出来なくなってしまう。
嘘つきの私がこんなことを思う資格はないと、この思いは叶うことはないとそう思って、しまい込んだ気持ちは、簡単にあふれてしまいそうになる。
「…それはっ、」
決めたはずなのに。
現代に帰ろう、そう決めたはずなのに。
「………。」
帰ります、そう告げることは出来なかった。