【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第13章 瓶覗 - kamenozoki -
二人の刀が鋭い音を立ててぶつかり合った。
「ほう、なかなか腕は立つようだ。行儀の良い太刀筋は嫌いではない。」
「…この変態、ッ、」
目では追えないほどの速度で激しく交わり合う刀。
少しでも体に触れたら、どちらとも死んでしまう、その恐怖に体が震える。必死に
止めて、
とつぶやいてみても、恐怖からか緊張感からかかすれた声しか出すことが出来ず、刀のぶつかる音にかき消されてしまう。
徐々に家康さんが謙信様に押され、
謙信様の刀の先が家康さんの頬を横切った。
「………く、っ、」
咄嗟に彼が後ろに飛び退き、刀を構え直すけれど、その頬には赤い線が走り、真っ赤な雫が顎へと伝った。
息が止まる。
風邪のせいも相まって、頭がガンガンと鳴って体に熱が集まるのを感じたその時…、家康さんの腕が震えていることに気がついた。刀はかすってないはず。それなのに袖に血が滲んでいる。
…あの手は、この前怪我していた腕?
もしかして直りきっていなかったの?
心臓が嫌な音を立てる。
家康さんが刀を握り直すのと、
私が牢の鍵が開いていいることに気がついたの、
謙信様が家康さんに向かって刀を振り上げるの、
一体どれが早かっただろう。
「…家康、覚悟。」
「………ッ、」
「…だ、め、」
謙信様の刀が振り下ろされようとしているその時、私は重たい体を必死に動かして、家康さんの方へと牢の外に飛び出た。叫びは音にならなくて聞こえなかったみたいだけど、想定外の私の動きに手を止めた謙信様のその一瞬の隙を突いて、
家康さんの刀が謙信様の胴をかすった。
その場に崩れる謙信様に、
「……ぁ、」
思わず動きを止めると、
正面から伸びてきた腕が私を横抱きにする。
「大丈夫、咄嗟に避けられたから深い傷じゃない。」
「……いえやす、さ、」
「うん。あんた熱いね。話は後で聞くから、今はそこで大人しくしてて。」
「…はい、」
苦しそうにうずくまる謙信様のことを放っておいていいのかと心配する私の気持ちが分かったのだろう。家康さんは、そう言って、私を抱き上げたまま牢から走り出した。彼の肩越しに見えた謙信様は、
「…亜子、」
私の名を呼んでいた気がした。