【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第13章 瓶覗 - kamenozoki -
〔 亜子目線 〕
「ゴホッ、」
今は何時だろう。
牢の中では時間を感じることがない。廊下の先が薄暗くなってきている事と、風が少し冷たさを増すことで、なんとか今が夜に近づいている事を知る。
いつ外に出て風を感じることが出来るのだろう。時間も季節感も何も感じることのないこの牢は、とても心細い、と足を抱えた、
その時だった、
着物をたくさん抱えた上杉謙信がやってきて、私は目を丸くする。
「…どうなさったのですか、その着物、」
「すべてお前の物だ。」
「え?」
「今日は昨日より咳がひどかったからな。」
「だからって、」
「信玄の着物は気に入らないのだろう?」
…そんなこと言ってません。
そう言っても彼には私の言葉は彼には届いていないらしい。牢の鍵を開けて、中に入ってくると、武田信玄が持ってきた着物と自分が持ってきた着物を入れ替える。その様子を静かに眺めた。
「この着物も気に入らんか?」
「いえ、」
「そうか。」
「…ゴホッ、あの上杉様、」
「謙信と呼べと言っただろう。…なんだ。」
私の咳を気にした様子をしながら、
牢の中の入り口近くに、…謙信様が腰掛ける。
「…謙信様、………一つ質問をしてもいいでしょうか。」
「いいだろう。」
「先ほどおいでになったときも言いましたが、私にここまでして下さる理由が分かりません。」
「だから何度も言っているだろう。ここで死なれては寝覚めが悪い。」
でもそれは、謙信様自らがこの牢に足を運ぶ理由にも、こんなに上質なこんなに上質な着物を用意して貰う理由にもならない。私の風邪の世話なんて、女中さんに任せて置くことだって出来るのに…。
そう思うけど、それを口にすることは出来なくて、彼の顔を見ながら口を噤む。
それでもも一つ気になる質問を投げかけてしまった。
「…どうして私を人質にとったのですか。」
最初怖くて仕方なかったこの人が、
なぜか今、
恐ろしいと思えなくなってしまっているから。