【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第13章 瓶覗 - kamenozoki -
〔 家康目線 〕
「安土ほどじゃないけど随分賑わっているな。」
辿り着いた春日山城をにらみながら、ボソリと零す。行き過ぎる町人たちは、活気に溢れて幸せそうに見えた。
戦が起これば
ここも、昔の三河みたいになるのだろうか。
しばらく帰っていない故郷のことを思い出す。
人質として差し出されていた時代の故郷は、貧しさの底にあって、今川家という檻に入れられた自分は、その惨状を伝え聞いて胸を痛めることしかできなかったけれど。
「…余計なこと考えている暇は、なかったな。」
この大きい城のどこに亜子はいるんだろう。
奥歯を噛み締め城下町へと進もうとした。その時…
「…失礼します。」
「大声出すなよ、目立ったら終わりだからな。」
音もなく近づいてきた2つの影を、冷ややかに睨みつけた。流れるようしぐさで刀の柄に手をかける。メガネをかけた男は見たことがない顔だ。
だけど、もう一人には見覚えがある。
あの武田信玄の腹心、
…真田幸村。
こんなところにいるのは思わなかった。ギロリと睨みつけながら、刀を抜こうとする。
「落ち着いて下さい。俺たちは戦いに来たんじゃありません。」
「その言葉信じろっていうの?」
「突然で無礼だとは思ってます。とりあえず、自己紹介させてください。俺は…亜子さんの友人です。」
「………え?」
亜子…の友人……?
記憶を無くしてるあの子の?
春日山城の足元。それに真田と一緒にいるのを見る限り、敵側の人間のこの男が亜子の知り合い?
驚いて目を見開いたまま固まっていると、メガネの男は真剣に俺を見据えて口を開いた。
「俺の名前は佐助といいます。あなたを探しに行ったらもう陣営を抜けた後だったので、ここで待っていました。俺の話を聞いてくれますか?徳川家康公…。
亜子さんについてです。」
…佐助、
その男が口にした亜子の話は信じられないはなしだった。