【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第2章 月白 - geppaku -
「…信長様、亜子様でございます。」
女中さんが遠慮がちに襖の向こうに声をかけると、入れ、と低い声が響き、両端に控えていた女中さんが襖を開く。
豪華な広間の1番奥。
上座に座る織田信長と目があって背筋が凍った。
その少し下の両脇に豊臣秀吉、明智光秀、伊達政宗と石田三成、そして、目が覚めた時部屋に来た彼が控えている。その重圧感に心臓が急に早鐘を打つ。就職活動の面接よりも重たい雰囲気に耐えられなくて、口の中が一気に乾燥していった。
「側に来い。」
その言葉に逆らうなんて空気じゃなくて、震える足をなんとか動かして、織田信長の前まで進んだ。
「体調は戻ったのか。」
「…はい。御迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
「良い。貴様は命の恩人だ。逃げ出したことも許してやる。」
「え、」
「その代わり、貴様は今後この城に住み俺に支えろ。」
その言葉に驚いて、目を見開く。
この人は私に『俺の女になれ』と言った。私はその命令から逃げ出したのに…。
「それは、」
「貴様の意思など聞いていない。」
「ッ、」
「貴様は俺に幸運をもたらす。俺の側にいるだけでいい。何者かは知らぬが、見たところ間者ではないだろう。何処ぞの姫としてでも扱ってやる。この城にいて俺に幸運を呼び込め。」
「…わたしはっ、」
織田信長のその言葉に居ても立っても居られなくて、思わず叫ぶように口を開いた。