【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第13章 瓶覗 - kamenozoki -
〔 亜子目線 〕
「…調子はどうだ?」
「………ゴホッ、ゴホッ、なぜ、毎日いらっしゃるのですか、」
「放っておいたら死にそうだからだ。」
「…風邪で死にはしません。」
熱に侵されて火照る体。
夜風に当たりすぎたのか、少し風邪っぽいなとは思っていた。けど、この牢に入ってから、さらに体が冷えたから悪化したんだろう。見張りの人が見つけてくれたから助かったけど、発熱した重い体が動かせなくて牢の床に倒れこんだ。
それが三日ほど前の話。
それから上杉謙信は、毎日、何故かこの牢に足を運んでくる。何か話すわけでもなく、ただ一日の食事のどれかを彼が運んでくる。
「だが、薬を飲ませてもひとつも良くなってない。」
「………。」
「ここで死なれては寝覚めが悪いから、様子を見に来ているだけだ。」
「…ご親切に…ありがとうございます。」
「よい。元々ここに入れたのは俺だ。」
…連れてきたからには面倒を見るのは当たり前だ。
と、そういう彼に、
私は訳がわからなくなった。
信長様をここに誘き出すために私を人質に取ったなら面倒を見る義理はないはずだ。それに、上杉謙信の思惑通り、信長様がこちらに向かっているなら、私の人質としての価値が証明されたことになる。
敵国の人質なのに、
何故、こんなに手厚くしてくれるのだろう。
「お前は、いつもその着物だな。」
「…え?」
居心地の悪さをひしひしと体中で感じていると、彼の口から発せられた言葉に驚いて、うまく頭で処理できなかった。
…私の着物?
「信玄が持ってきたものがたくさんあるだろう。羽織はきちんときているようだが、」
「………。」
「その着物では薄い。違うのを着ろ。色や柄が気に入らないのなら違うのを取り揃える。」
「……上杉様がそこまでなさる理由が分かりません。」
「…は?」
だって、そうだ。
武田信玄が持ってきた着物は、どれもこれもとても上質な反物で出来ていた。色も柄もどれも綺麗で、私が安土城で普段着にしていた小袖とは全然違う。
この着物は私が元々身につけてきたもので、
家康さんからもらった反物で作った着物。だからっていう理由だけじゃなく、人質の私がもらうにはあまりにも高そうな着物に手を通せそうもないだけ。