【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第13章 瓶覗 - kamenozoki -
「そんな顔をしてもダメだ。可愛いだけだから。」
「……帰って下さい。」
「…君がこの羽織を受け取るなら帰ろう。ずっとその着物だけを着ているようだが、この牢の寒さにそれ一枚では風邪を引く。」
「…お気遣いだけ頂いておきます。」
「…頑固な姫だ。」
確かにこの牢は寒い。
それでも、敵に弱いところを見せるわけにはいかないだろうと、背を向けた。しばらくして、はあっと盛大なため息をついた武田信玄は、
また来る、
といつもの一言を残して帰って行った。
彼らは佐助くんの仲間だから
根は悪い人ではないのだろう、とそう思う。
彼らにもまた負けられない理由があるのかもしれない。
私の体調を心配してくれているし、ここには毎日きちんとした食事も運ばれて来る。でも彼らにとって、私が敵側の姫である事は変わらない。
自分が“戦”の火種になってしまうのかと思うと、
簡単に彼らに気を許すわけにはいかなかった。
「…ごめんなさい、」
片方だけ残った耳飾りを握りしめて、
何度呟いても、
この言葉は誰にも届かない。
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「…信長の妾が倒れた、だと?」
「はい…。牢に入れた日も既に咳をしておられたのですが、」
寒い牢屋の中、
薄着で過ごされ、あまり食事もとっていらっしゃらなかったようです。
牢の番を任せていた家臣からの報告に、謙信は深くため息をついた。そういえば、女という生き物は弱く面倒くさい生き物だった。