【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第13章 瓶覗 - kamenozoki -
「また、いらしたのですか…。」
「随分と冷たいな、姫。」
牢に入れられて3日ほど経つ。
毎日牢に何らかの物を持ち、理由をつけてやってくる彼に私は冷たく声をかけた。
…武田信玄。
ここに連れてこられた初日も、泣き疲れて眠ってしまって、目を覚ましたら目の前に彼がいた。
『お、目を覚ましたか。』
『……っ、』
『まさか、君が信長の妾だったとは思っても見なかった。ゆかりの姫だとばかり思っていたが…。』
『…何故、ここに、』
『姫の美しいお顔を拝見したくてね。…どうかな。この機に、信長から俺に乗り換えないか?そうしたら君をそこから出してあげよう。』
安土で出会った時と同じように、
さらさらと口から甘い言葉を吐いて笑いかけてくる。
でもその言葉で、
やはり彼は私が織田家ゆかりの姫の立場にあることを知っていて、“姫”と呼んでいたのだと悟った。
『…あなたのお力は借りません。』
『あなた、とはつれないな。信玄、とそう呼んでくれ。』
『………。』
『ふっ、まあいいさ。また来るよ、姫。』
彼の力を借りてここから出ても、安土に帰ることはできない。と、彼から目を逸らせば、
また来る、そう言い残して武田信玄は去って行った。
その言葉通り、武田信玄は、毎日ここにやって来ている。でも今日の彼は、いつもの笑みではなく、少し真剣な瞳をしていた。
その理由はすぐにわかった。
「…君は信長にとってとても大事な存在らしい。」
「………え?」
「奴が軍を率いてこちらに向かってきていると、報せが入った。」
「…ウソ、」
「本当だ。ゆっくりではあるがこちらに向かってきている。罠だと分かっているだろうが、信長はそれほどまで君を助け出したいらしい。」
俺達は万全の体制で信長を迎え撃つ。
そして必ず、あの男を殺す。
ギラギラと熱く怒りの篭る瞳に、私は思わず、彼を睨み返した。私の視線を受け止めた彼は、その表情を緩めフッと笑みをこぼす。