【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第12章 深紫 - fukamurasaki -
『信長の愛妾は預かった。返してほしくば、力ずくで春日山まで奪いに来い。- 上杉謙信』
雪が届けたその文を読み、
不敵な笑みをこぼす信長と、顔を青くして言葉をなくす秀吉。その足元には、喜作の姿があった。
「申し訳ありません…、」
「いや、貴様のせいではない。ただ不運が重なっただけのことだ。」
雪がひれ伏して謝る中信長は、
敵が手紙と一緒に寄越してきた亜子の耳飾りを眺める。指の一つでも切り落としていくかと思えば装飾品ひとつ。恐らく、しばらくの間亜子は無事でいるだろう。
謙信にしては珍しい手だな。
そう思って信長はまた口元をゆがめた。
それに体を震わせたのは足元に転がる喜作だった。
「…ひっ、」
その歪められた口元から、自分にどんな言葉が落とされるのだろうと怯えている。
喜作は、謙信から届いた手紙、その中にあった
“信長の妾”
というその言葉を聞いてから余計に体の震えが止まらなかった。
姫様が大事にされていた理由…。
姫様が隠されていた理由…。
織田家ゆかりの姫でなければ、娘でもない。信長様の女だったからだ、とそう知った瞬間、喜作はとんでもないことをしてしまったとブルブルと震えた。
まさか、姫様の心に決めた方というのが信長様とは、ひとつも考えたことがなかったのだ。
だから後考えず、織田家との強い繋がりを得て、のし上がろうと思っていた。自分の領地では、姫は自分のものだと触れ回っている。もし信長様に知れたらどうなるだろう。
信長はそんな喜作の心を知ってか
「……何か申すことはあるか?」
「……っ、申し訳ありませんっ!信長様の、お相手とは露知らず、…、」
「フッ、…貴様の軽い口や過ぎた行動は災いを呼ぶ、と言っておいただろう。」
「…ッ、」
そう言って喜作を睨みつけた。
亜子への執着。
いや、身勝手な男の権力への執着。
亜子が織田家ゆかりの姫の、でなければ、いくら容姿が美しくあろうとこの男は彼女に拘らなかった。織田家の姫を貰い受けることで、織田家にとって近しい存在として権力を得たい、その男の願望が彼女に拘る理由を生んだ。