【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第12章 深紫 - fukamurasaki -
胸がドクドクと動き出して、息がつまる。そっと耳に手を当てたら、そこにあるはずの耳飾りの感触がなくて、ブワッと涙が溢れて来るのがわかった。
どこで?
いつ?
いつ私は落としてしまったんだろう。
どうして今日に限って身につけていたんだろう。
家康さんに貰った耳飾り…、汚さないように、壊さないように、無くなさないようにすごく気をつけていたはずなのに…。
なんで、今日に限って、
家康さんに貰った反物で作った着物も着ているんだろう…。まだ二回ほどしか着ていないのに、裾には少し泥が跳ね返ってる。
泣いて、泣いて、泣いて、
頭の痛みが増す。
それでも涙が枯れることはなくて、そのまま倒れるように眠りについた。
牢を通り抜ける風は、
いつもの何倍も冷たく感じた。
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名前のいる牢から立ち去った後、謙信は広間に同盟相手の将を呼び出していた。
「信長をここへ引きずり出す、だと…?」
「ああ。それならお前も存分に戦えるだろう?」
「…どうやって引きずり出す気だ?」
「亜子という信長の妾をエサにする。」
聞き覚えのある名前。
謙信から経緯を聞いた信玄は、その凛々しい眉をひそめる。
女の名前を忘れるわけはない。
亜子…、その子は佐助の友人で、信長の妾ではなく織田家ゆかりの姫のはずだ。最近は、娘という噂も広まっているが、愛人という話など聞いたことがない。
どういうことだ…?
「初耳だな。俺の情報だと、その子は愛人じゃないはずだが…。」
「そんなことはどうでもいい。国境で小競り合いを続けても埒が明かない。あの女を火種にし、早々に信長と決着をつける」
「確かに、信長の首を取るのに最短の方法かも知れないが…人道的なやり方じゃあないな。うちの年少組は、なんていうかな?」
「あやつらには口出しさせん。牢番をつけ、立ち入らせないようにする。」
幸村と佐助の顔を思い浮かべて、謙信は肩をすくめてみせた。