【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第12章 深紫 - fukamurasaki -
「申し訳ありません…、亜子様、お怪我はありませんか?」
「うん…。私こそごめんね、巻き込んじゃって。」
「いえ、大丈夫です。茶屋と逆の通りに出る道を行きましょう。追ってきている可能性もあります。」
「分かった。道知ってるの?」
「…はい。私は、」
素朴な疑問だった。
喜作さん達に囲まれても何も怯えてない彼女。
まるで、助けが来るのを知ってたみたいに林に駆け出して、今も私とは違って息切れ一つしていない。
それに、林の中の道を把握してる。
この時代の女中さんってみんな、非常事態に備えて色々学んでいるのだろうか、と思っただけだった。
なのに、少し眉を寄せて、
言い澱むように口を開いた雪ちゃん。
何かを言いかけたその時、
ザザッ
とまた木々が揺れる音がして、
私たちの周りをぐるりと黒い布で顔を覆った人たちが囲んだ。
「貴方達は…っ、」
「フッ、やっと見つけた。亜子殿。」
「…軒猿ですか、何故貴方達がここに?」
「お前には関係ない事だ。」
雪ちゃんがまた私を庇うようにして、彼らを睨みつける。何か会話をしているけど、私には分からない内容で、でも、雰囲気からして、喜作さんとは違う…。
そう思った直後だった。
背後から掴まれて、口元に布があてがわれる。
薬の匂いがして、
目の前が霞んできた。
ぼやける視界の端で、男達に羽交い締めにされた雪ちゃんが叫んでいるのが見える。
でも抗うこともできないまま、
プツリと意識が途絶えた。
「お前にはしてもらわないといけないことがある。」
「…姫様をどうするつもりですか。」
「…フッ、信長にこれを届けろ。謙信様からの命だ。お前と信長の働き次第で、あの姫の扱いは変わるだろう。」
「…ッ」