【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第12章 深紫 - fukamurasaki -
次の日の早朝、
家康さんが戦に向かった。
その日からさらに胸の奥に巣食う言い表せない気持ちは大きくなっていって。
冷たい風を感じながら、
空を眺める。
「…そんなところで何をしておる。」
深くため息をついて縁側に座っていた。廊下の灯りはもう消されていて、月と星の光だけが辺りを照らしている。だから、声をかけられた時とても驚いた。
その声の主にも、
彼がここにいることにも。
「…信長様、なぜ、」
「フッ、貴様が毎夜星を見ていることくらい知っている。何を杞憂しているのか知らんが、貴様が心配することではない。」
「…そう、ですよね。でも、心配することしか出来ませんから。」
「…最近は城からも出ておらぬようだな。」
真っ暗な闇と、
冷たい風が、
私と信長様の影を包む。
「はい。…用事もありませんし、」
「萩姫や喜作がいるからだろう。貴様はすぐに顔に出る。あの男は知らんが、萩姫は自分の城に戻った。」
「…え?」
「どんな手を使ったか知らんが、家康が萩姫との婚姻を考えると言った様だな。彼奴が戻るまで城で大人しくしているだろう。」
「……ッ、」
思わず息を飲んだ私に、
信長様は気づいただろうか。
やはり、家康さんは萩姫様を選ぶのかな。
私の心の中にあったあの淡い期待は、大きく音を立てて崩れていく。結ばれないと分かっていても、諦めていても実際に目に耳にするのは勇気がいって、
胸がズキンといたんだ。
萩姫様にあって、
私がこの時代の人ではなく、
身分の差もあることをまざまざと感じたあの日。
諦めようと、
彼が無事で、幸せでいれたらいい、と
そう思ったはずなのに。
「…そうなんですね、」
「ほう、泣かないのだな。」
「何故、そう思うのですか?」
「貴様が家康を思っていることなど聞かずとも分かる。あれだけ彼奴を心配して泣いていたのだ。嫌われていると思い込んで、部屋に篭るくらい慕っているのだろう。」
…現に今も、な。
そう言っていつものように、ニヤリ、と口元を緩める信長様に、私は曖昧に笑った。
泣けない、理由が私にはあるもの。