【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第2章 月白 - geppaku -
「わけのわかない理由で信長様の御前から姿をくらますとは…、無礼にも程がある。」
「そう言われても、『俺の女になれ』なんて命令聞けません…。」
ついそう言い返したら、もう一頭の馬の上から笑い声が聞こえてきた。しまった、と思ってももう遅い。
「お前が亜子か。」
「あなたは…、」
眼帯で右目を隠した男性が馬上から腕を伸ばす。そして抵抗する暇もなく片手で軽々引き上げられ、私は彼の馬に載せられてしまった。胸元に抱き寄せられ、鋭く好戦的な笑みが目の前に迫る。
「伊達政宗だ。」
伊達政宗…。
たった1日なのに、私は一体何人の歴史上の偉人に会えばいいんだろう。織田信長、豊臣秀吉、明智光秀、石田三成、上杉謙信、武田信玄、そして伊達政宗。
目を白黒させて固まる私を見て、信長様の命を助けたという女にしては、勢いが足りないな、そう言い放った彼は私を離すどころか、手綱を勢い良くしならせる。
「…ッ!う、わっ!」
すると馬が勢い良くかけ出し、私はとっさに目の前にある伊達政宗の甲冑にすがりついた。
「おい、政宗。落とすなよ。」
「当然だ。しがみついてろよ、亜子。」
何故こんな状況になったのか、訳が分からなくて、だんだん身体が震え始める。
どんどんスピードを上げる馬に怯えながら必死に伊達政宗にしがみついていると、すぐ隣に馬を並べた豊臣秀吉が不本意そうに話し始めた。
「信長様から、お前を連れて来いと命を受けた。」
「すこしとばす。振り落とされるな。」
豊臣秀吉のその言葉にまた目眩を覚える。
もしかして命令を無視して逃げたから処罰されるんだろうか。あの偉そうな態度の織田信長なら、あり得ることかもしれない。それに横にいる豊臣秀吉も私のことを疑っているはず。
自分の置かれている状況にキャパオーバーになり、私は気づけばまた意識を失っていた。