【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第12章 深紫 - fukamurasaki -
「…あいつの縁談の相手は萩姫と十五も違う。それに萩姫の他に正室も側室もいる。別に珍しいことじゃない。良家の姫が、親からの縁談でそういった相手に嫁ぐのはよくある話だ。
だが、萩姫はああいう性格だから、それを受け入れるはずがない。
萩姫は、信長様に直談判をしに来たんだ。
どうにかしてくれ、と。大方、信長様が父親と家康を説得してくれると思ったんだろう。二人とも信長様には逆らえない。でもまあ、上手く行かなかった。」
言われて思い出す、
そういえば信長様が萩姫に側室の話を出す直前に、
『貴様、萩姫を正室にする気はあるか?』
そう聞かれて、
『あるわけないでしょ。』
と答えた。
その後に信長様が彼女に側室の話を出したと聞いて、不思議に思ったが、あの質問はありそういうことか、と納得した気がする。
「信長様は嫌がる萩姫に、情けをかけて下さって、あいつに側室の話を出したわけだが…、
萩姫はそれも拒んだ。
父親は信長様のところなら願っても無い話だと喜び、元あった縁談も破断にしたわけだが、無礼にも萩姫は信長様をも拒んだ。
それからしばらくどうなってたかは知らないが、
だが、最近また、
父親が萩姫に縁談をとって来た。
拒んでばかりいる娘を思って、様子を見ていたが、恋が叶う様子もないので、いい歳だからそろそろ本格的に嫁がせようというとこだろう。
相手は、良家の若い武士らしい。
断る理由もないし、父親は、自分のお家の為にもこの縁談を決めてしまいたい。
だからあいつに、
条件と猶予を与えた。
それが丁度今月で終わる。
お前が婚姻を認めなければ、萩姫はその相手に強制的に嫁がせられる。父親は話がまとまるわけがないと思いこの話を出した。
だからあいつも必死だ。」
家康はため息をついた。
この話の当事者に自分が含まれなければ、哀れな姫だと思うことが出来ただろう。だが、
「俺はそれでも、嫌です…。」
もうそう思うことは出来ない。
姫であることを鼻にかけ、忍びを使って自分の思い通りに生きていた萩姫。初めて、親に自分の人生を強制され、その反発から生まれたのが家康への執着。
それはもう、恋でも、愛でもない。
萩姫のような女は元々苦手だ。
それ故に、自分に向けられた執着が嫌悪感を増す。