【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第11章 路考茶 - rokoucha -
「…出立まで準備に追われて忙しい。」
「はい、」
「だから、戦から帰ってくるまでもう会うことはないかもしれない。」
「………はい。」
「…だから、いい子で待ってて。」
優しくて甘いその声は、今の私には毒だった。
「必ず勝って帰ってくる。」
「………っ、」
「それまで亜子はここで待ってて。」
何で、私にそんな顔を、声を、向けるんだろう。
低く優しくて、甘くて、決意を含んだ声に、私はこくりと頷くと、静かに涙を零した。
…結ばれることはない。
萩姫様にそう言われなくても分かっていたこと。
私はこの時代の人間じゃないし、彼に、みんなに、嘘をついているような女だ。
それなのに、期待して、
思い合えているような気がして。
そんな浅はかな自分が嫌だ。
「…どうかお気をつけて。」
「うん、行ってきます。」
浪人の捕縛に向かう彼と交わした会話と同じ。
でも、今度は不思議と嫌な予感はしなかった。家康さんはきっと無事に、戦に勝って帰ってくるだろう。そう信じるしかない。
廊下の闇の向こうに消えて行く彼の背を
私は溢れる涙を拭うこともせずに見送り続けた。
涙がやっと枯れた頃には、
身体はとても冷え切っていた。
流石にそろそろ風邪をひく、そう思って部屋に入ると、そこには何故か佐助くんの姿があって、私は驚いて悲鳴をあげそうになった。
「…っ、さすけ、く、」
「すまない、亜子さん。驚かすつもりはなかったんだ。」
「…いつからここに?」
「…実は結構前からここにいて、ごめん、これも謝る。君と家康さんの一部始終を見てしまった。」
連絡しようにも連絡手段はなく、
こうして夜に女性の部屋に忍び込むのはいかがなものかと思ったが、伝えたいことがあってここに来た。縁側に座って星を眺める君に声をかけようと思ったが、その時ちょうど家康さんが来て、咄嗟に身を隠し、今に至る。
必死に謝りながら言う佐助くんに、少し微笑む。
「いいの。私も佐助くんに話すことがあったから。」
「……それはワームホールのこと?」
「…うん。」
そう頷くと、佐助くんはメガネの縁をキュッと持ち上げて真剣な眼差しで話を聞いてくれた。