【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第10章 紺鼠 - konnezu -
〔 亜子様目線 〕
「何故早くに言わなかったんだ。」
「いずれ諦めてくれると…、」
秀吉さんに連れられて、彼の御殿に向かう道中
昨日のことを思い出す。
昨日、喜作さんから届いた文は信長様宛だった。私に会いにやって来る、という文を見てちょっとした騒動になった安土城。
信長様は動じることもなく、ただ笑っているだけだったが、その場にいた秀吉さんにはとても怒られた。面倒なことにならないように、と秀吉さんは、今日一日私を御殿に置いてくれる。
「ごめんなさい。」
「お前が謝ることじゃない。ただ喜作の様な奴は少し厄介なんだ。次からはもっと早く相談しろ。」
「…はい。」
「いい子だ。怒ってないからそんな顔するな。」
まるでお兄ちゃんみたいに、
私の頭をポンっと撫でて気遣ってくれる秀吉さん。
「それより、その大荷物はなんだ?」
「一日外には出られそうにないから、着物を仕上げようと思って持ってきたんです。」
「…針子の仕事か?にしては量が、」
「一着は仕事のやつだけど、もう一着は自分用で。」
「そうか、ならいい。あんまり頑張り過ぎるなよ?」
「うん。」
…家康さんから貰った梔子色の反物。
あれからコツコツ仕立てているけど、普段は、安土城の針子の仕事の合間にやるからあまり時間が取れなくてまだ全然仕上がっていない。弓術と薬学の勉強も同じように空いた時間にやっているから尚更。
今日は時間がたっぷり出来そうだから、と持ってきた。
「じゃあ、俺はすぐ隣の部屋にいる。」
一日部屋で仕事をするから、
何か用があったら呼んでくれ。
そう言って秀吉さんは部屋に入って行った。いつも誰よりも城で忙しそうに歩いている秀吉さんに、手間を取らせたことを申し訳なく思いつつ、私は一心不乱に着物を仕立てた。