【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第10章 紺鼠 - konnezu -
「家康、喜作ってやつ知ってるか?」
そう聞かれてチラリと浮かぶ胡散臭い笑み。
喜作…、一度だけ顔を見たことはある。
亜子を御殿に連れて行くときにすれ違った大名の息子だ。
「其奴がしつこく亜子に迫ってるらしい。」
「…は?」
「信長様に言われて、亜子は今まで来ていた恋文に断りの返事を書いたらしいんだが、大半の奴がそれで諦めた中、喜作って奴はしつこく文を送り返して来ているらしい。」
「待ってください、…返事書かせたんですか?」
「面倒なことになる前にという信長様のご判断だ。“心に決めた方がいる”そう断りの文を書かせたらしい。」
「…っ、」
「あまりにもしつこいから、亜子も怖がって喜作からの文を受け取らないようにしているらしいが、つい昨日、信長様宛に“亜子に逢いに城に向かう”といった内容の文が届いた。…まあ、果たし状だな。」
…一体いつのまにそんな事に。
亜子は、顔も名もまだ公にはされていない。
表向きは織田家ゆかりの姫だけど…、本当はきっとその辺の町娘…。まだ記憶が戻っていないはずだから詳しいことはわからない、けど。
こんなことになって、亜子も混乱しているはずだ。あの子は人一倍周りのことを気にしてるから。
「…くそっ、…あの時、アイツにゆかりの姫だと言ったのが間違いでした。」
「まあ過ぎたことは仕方ない。」
「…信長様は、亜子を其奴に会わせるつもりですか?」
「な訳ないだろ。亜子はその日、秀吉の御殿に預けられる事になってる。本来ならお前のところだっただろうが、今は萩姫がいるからな。」
「……。」
「萩姫のことは早くどうにかした方がいい。」
…まあ、掻っ攫うのは俺かもしれないけどな。
そう言ってニヤリと口元を上げだ政宗さんを、軽く睨むと、頭の中に亜子の姿を思い浮かべた。あの時、呼び捨てで亜子を呼ばれてから、もう暫く顔を見ていない。
俺が城に行かないからっていうのもあるけど、
一緒に暮らしていなければ、用事がないと会うこともないのか。
「…早急になんとかします。」
政宗さんの言葉は冗談か本当か分からない。
けど、亜子を誰かに上げる気なんてさらさらない。