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【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -

第9章 舛花色 - masuhanairo -


〔 亜子様目線 〕


『っ………い、いえや、す、』



名前を呼んだだけ。

ただそれだけなのにあんなに緊張するとは思わなかった。まだ熱を持ったままの頬に触れ、少しだけ見れた彼の笑顔を思い出す。

初めて見たその顔に胸が高鳴って、

気持ちが溢れ出てしまいそう。
目の前に広げた反物を眺めながら、いつになっても呼び捨てには出来そうもないと思った。









信長と光秀は、

亜子の部屋から家康が出ていくのを、廊下の角で眺めていた。



「いいのですか、御館様。」
「…構わん。心はどうすることも出来んからな。」



ただ、



「今の彼奴にはまだ亜子はやれんな。」



まだ家康は青い。

萩姫のことも、亜子のことも何も見えておらん。彼奴が見ているのは自分の心と、上辺だけだ。

現に、萩姫の放った忍びが、
亜子の周辺を探りにきているのを彼奴は気づいていない。恋路を助けてやるつもりは無いが、亜子が危険に晒されるのは回避せねばな。


そう言って信長は、光秀に城の警備を増すことを指示すると天守に戻っていった。



「…雪。」
「…はい、光秀様。」
「お前の出番のようだ。引き続き名前から目を離さないようにしろ。」
「かしこまりました。」



何処からともなく現れた女中の格好をした雪。

光秀の命にハッと頭を下げると、名前の部屋の向こうに下がっていった。

家康の御殿に行く時に監視と警備をかねて亜子につけた女中。彼女は光秀の抱える忍の一人だ。素性も分からない亜子、間者である線は薄いがそれでも念のためと女中に扮して忍びを付けた。



「…取り越し苦労だったようだがな、」



未だ一度も怪しい動きは見せたことがない。

城を抜け出したのもたった一回で、道に迷ったという言葉は本当だったのだろう。家康の御殿にいる間も大人しくしていたようだし、あの能天気そうな笑顔にはどうも毒気を抜かれる。

…次はあの小娘を守らねばならんようだな。

あまり構っている暇はないが、ちょろちょろと周辺を嗅ぎ回っているネズミの尻尾を是非とも捕まえたいものだ。



そう思いながら光秀も、
自分の御殿へと来た道を戻っていった。


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