【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第9章 舛花色 - masuhanairo -
「…でも、私少ししか、」
「借りを作るのは好きじゃないから。」
「…っ、ありがとうございます、」
「うん。」
こんないい物を、と遠慮する亜子。
こんな言い方するのは嫌だけど、素直に貰って欲しいとは言えない。そんな冷たい言い方でも、嬉しそうに笑うから、思わず俺も頬を緩めてしまった。
そんな俺をみて、
亜子がどんどん顔を赤くしていく。
それが俺にまで伝染してきて、体温が上がった。
「…はじめて、みた、」
消え入るような声でボソリと呟かれた言葉。
思わずプイッと顔をそらす。
二人きりの部屋でこの空気はまずい…。
亜子が俺の気持ちに気付いてるかは分からないけど、俺からみたら亜子が俺のこと気になっているのは一目瞭然で。
ぼわっと甘い空気が漂うこの空気は本当にまずい。
「…そういえば前から言おうと思ってたんだけど。」
何とかこの空気を変えようと思って、
「…いい加減、敬語、やめたら。」
「………え、」
思わず口にしたその話題。
「秀吉さんとか光秀さんとか、…政宗さんに至っては呼び捨てなのに、俺はなんで家康“様”なの。」
「…それは、」
「あんたの面倒一番見てるのは、俺でしょ。」
「………でも、家康様、」
「“家康”。」
でも、この話題も間違いだったかも。
「っ………い、いえや、す、」
顔を真っ赤に染めた彼女が俺の名前を呼んだ瞬間、部屋中にさっきよりも色濃い空気が漂って、
ただ名前を呼ばれただけなのに、
ギュッと心臓を鷲掴みにされた感覚になる。
「……っ、…やっぱり、無理、です!」
「…仕方ない。今は勘弁してあげる。でも様はダメ。」
「…わ、かりました、」
「うん、じゃあ、」
「はい、」
政宗さんはすぐ呼び捨てに出来てたのに、
そう食ってかかる余裕もない。
それに、今これ以上名前を呼び捨てて呼ばれたら、本当に我慢できなくなりそうで。とりあえず、家康様、とそう堅苦しく呼ばれるのだけを辞めてもらえたらそれでいい。
名前を呼んでもらうのは気持ちを伝えてからだ。
そう思って早足に部屋を後にした。
浮ついた頭では、熱を持った顔を隠すようにして廊下を歩いているところを誰かに見られているかもしれないなんて、考えることは出来なかった。