【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第2章 月白 - geppaku -
現実逃避をするように、目を瞑って走っていると、突然誰かに腕を引かれた。
「おい!」
「…っわ、!」
その拍子にバランスを崩して倒れこみ目を開けると、体格のいい男の人が私の下敷きになっていた。
「…っすみません!」
慌てて身体を起こそうとすると、焦ったように声をあげた彼は私の身体を後ろから抱きしめる。
「っえ?」
「あー、焦った…。」
ホッとため息をつく彼に習って目の前を見ると、すぐそばに崖が広がっていた。何も考えたくなくて目をつぶっていたから全く気づかなかったけれど、この人が助けてくれなかったら…そう思うと目の前が真っ暗になる。
…なんで今日はこんなことばっかり、
「…助けてくださってありがとうございます。」
「礼なんていらねーから離れろよ。」
「…ぁ、すみません。」
急いで離れようとして、手首をギュッと!掴まれる。
「待て、急に動くな。」
「えっ、でも、」
「滑りやすくなってるから足元ちゃんと見ろってことだ。それくらい見てわかれよな。」
「すみません…。」
「っ別に、怒ってるわけじゃねー。キツイ言い方して悪かったな。ほら、こっち来い。」
苦笑して、彼は大きな手のひらを差し出した。ぶっきらぼうだけど、悪い人じゃないみたい…。差し出された手を取り、崖の淵から離れる。
「んー?知らない土地に来て早速女の子引っ掛けたのか、幸。」
え?と思って振り向くと、長身の男性がニコニコ微笑みながら、林の奥から歩み寄ってきた。
「勘弁して下さいよ、信玄様。この女、崖に飛び込もうとしてたんです。」
「ちょっと現実逃避をしていて…、」
「ふうん、本能寺で火の手が上がったって夜に女の子が一人歩きとは…、もののけの類いかな?にしては美人だな。」
「っ…いえ、極普通の人間です。」
口説くように色香を帯びた眼差しを向けられ口ごもると、背後から声が響いた。
「よくそんな口説き文句が出てくるものだな。」
「ただの本音だよ、謙信。」
信玄、謙信って…、と息を呑んだ時、また一人男の人が茂みの中から物音も建てずに姿を見せた。
「謙信様、信玄様、お待たせしました。本能寺の火は消し止められたようです。」
さらりとした身のこなし。
それに口元を隠す黒い布。姿形は、私の知る忍者そのもの。