【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第2章 月白 - geppaku -
森の中を真剣に走る。
何もかも全て悪い夢でありますように。
そう願わずにはいられない。
走って走って、走り続けたらもしかしたら2018年の現代に戻れるかもしれない。私はこの世界にはいられないもの。右も左も、生きていく術もないこの時代で私は生きてはいられない。
そんなことを考えながら息が切れても走り続けた。
その時だった。
シャリン
森の中から鈴の音が聞こえた。
シャリン、
シャリン
鈴の音なんてどれも一緒。
それなのに嫌な予感がして背筋が凍る。だんだん近く鈴の音と落ち葉を踏みしめる音に嫌に心拍数が上がる。
「夜分に女子が一人歩きとは…どうなさった?」
振り向くと、笑みを浮かべた男性がこちらに歩み寄ってくる。長い杖のようなものを持ち、その先に付いている鈴の音を森の中に響かせるこの人は、炎の中で見た人影にそっくりだった。
「私は顕如と申す旅の僧だ。困ったことがあるなら相談に乗ろう。」
「い、いえ…気持ちだけで十分です。」
「そうか。なら早く家へ帰るといい、お嬢さん。夜の森は鬼がうろついているからな。」
「…ッ、」
顕如と名乗るお坊さんは、そう言って私の肩に手を乗せた。途端に体中が冷えた気がして、慌ててお辞儀をして、また森の中を走り出す。
見間違い!見間違い!
お坊さんがあんなことするわけない。
なんでこんなことになったんだろう。私はただ、京都を旅行していただけなのに。