【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第9章 舛花色 - masuhanairo -
そうだ、この人は、あの本能寺の変の夜に森の中で出会った人…、
…武田信玄。
何故この人が安土にいるんだろう。
この人たちは信長様たちの敵のはず…。
前軍議で聞いた話を頭の奥から引っ張り出す。私がぼうっと考え込んでいると、
「ああ、あの時の子か。」
「お前、安土の奴だったのか。」
「日のある時に会えたと言うことは、もののけでは無かったみたいだな。」
「…もしかしてお前か?佐助が探してる奴。」
…いや、でも、ここに奉公に来てる同郷のやつか、そういや佐助の故郷はどこだったかな、
ブツブツと話す幸という彼。
その言葉に、慌てて彼に尋ねた。
「…たぶん佐助くんが探しているのは私です。あの、彼は今何処に?」
そう聞くと、
幸さんはまた眉を寄せて、私をジロリとみて厳しい言葉を吐いた。
「あのなあ、お前、何処かに行くならちゃんと言ってから行けよ。あいつ探し回ってたぞ。」
「…それは、」
「まあまあ、幸、女性にそんな口の利き方をしていたら嫌われるぞ。…君、名前は?」
「………えっと、亜子です、」
「亜子か。君は名前まで美しいんだな。佐助は今所用で安土を離れてる。二日もすれば帰ってくるだろう。二日後俺と佐助とここでお茶をするのはどうだ?」
「…信玄様、帰るんじゃ無かったんですか、」
「こんな美人に出会って、見逃せるわけないだろう?じゃあ、また二日後の昼過ぎにここで会おう、姫。」
「…え?」
何も言うことが出来ず固まっていると、
武田信玄は掴んでいた私の手の甲に、ちゅっと口づけを落とすと、着物の裾を翻して行ってしまった。
…姫、
そう呼んだのは、何故だろう。
まさか、私が安土城で姫をしていることに気づいたんだろうか。まさか、そんなはずない。幸さんは私を、安土に奉公に出ている娘だと認識しているみたいだから、佐助くんが、きっとそういうことにしておいてくれたんだろう。
不思議に思いながらも、
何も気に留めずに城下町の店を眺めて城に帰る。
…二日後、
佐助くんに会えるならそれでいい。
きっと、すごく心配かけたと思うから。