【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第9章 舛花色 - masuhanairo -
安土城に戻ると、城門に光秀さんが立っていて、
「…光秀さん、」
「遅かったな、亜子、三成。」
「私たちを待っていてくださったのですか?」
「まだ萩姫がいるからな。」
少し眉を寄せていう光秀さんに、
何故彼女がこんなにも怪訝に思われているのか不思議に思う。
…萩姫様。
すぐ近くの国の大名の娘。
信長様との間に婚姻の話が出るような列記とした本当のお姫様…。
それに、家康様を執着するくらい恋慕っている方…。
私が彼女について得た情報はこれくらい。
確かに恋文を渡されて、怒られた時は驚いてしまったけど、そんなに悪い人には見えなかった。
「出くわさないように部屋から出るな。」
「…、」
「信長様の所へ行くのは後にしろ。面倒なことになりたくなかったら、な。」
「…はい。」
大人しく返事をするしかなくて、
「ふ、聞き分けがいい子は嫌いじゃない。」
いつもの怪しげな雰囲気に戻った光秀さんには、萩姫様がどんな方なのか聞くことは出来なかった。
亜子と三成が安土城に戻った頃、
城の大広間では異様な空気が広がっていた。睨み合う信長と萩姫。そのすぐそばに控え、様子を伺う秀吉。
「貴様の父親から早馬が来た。」
「…ッ、萩姫、お前また勝手に抜け出して来たのか?」
「あら、ちゃんと書き置きはしてきたわ。安土まで家康様の看病をしに行って参ります、と。」
「フッ、…暫く大人しくしていると思えば、まだ家康に執着したおったか。いき遅れるぞ。」
「余計なお世話ですわ。信長様こそ、奥方をお迎えしないではありませんか。…私を逃したのがそんなに悔しいのですか?」
「誰が貴様など好き好んで迎え入れるか。俺は貴様と違い、相手を選ぶことができるからな。」
「…ッ、……、」
「貴様に側室の話を出してやったのは、最後の情けだ。…それを跳ね除けたのは貴様だ。
どうなろうが俺の知るところではない。」
いつもに増して冷たい信長の声が広間に響く。