【 イケメン戦国 】宵蛍 - yoibotaru -
第8章 橙色 - daidaiiro -
「…はい。」
嬉しそうな彼女の声がして、
恥ずかしくてやってられない。
狸寝入りをしていると、しばらくして、そっと部屋を出て行く亜子の背を見届けて、布団から出た。
俺に嫌がられるか心配で、
数日間顔も出さなかったって?
本当に、何をどう見てそう思ったのか知らないけれど、勘違いもいいところだ。
「…っとに、」
俺の心の中にあるこの思い。
弓術の稽古を始めて気がついて、自分には必要のないものだと、深く考えずにいた。でもそろそろ、目をそらすことが出来そうにない。
秀吉さん、政宗さん、三成はまだいいけれど、光秀さんまでもが名前に構うし、信長様の腹の底は読めないけれど、あの人のお気に入りなのは本当だ。
信長様は置いておいて、
一番世話をしている自分だけまだ“様”と呼ばれているのも気に食わない。
…今日は一度も笑わなかった。
あのふわふわした笑顔をもうしばらく見ていない。
泣き顔や、心配そうに歪められた顔ばかり。
「…笑ってな、って言ったのに。」
亜子にあんな顔は似合わない。
その顔をさせた原因が自分なら尚更、
早く元気にならなくては、と
片腕でまぶたを覆いながら、静かに決意を噛み締めた。