第10章 つまりはそう、キミのせい ~赤司~
「ックソッ」
その男子の手を離すと、忌々しげに舌打ちをして何処かへ行った。
そうだ、それで良い。
ふと何も言わない先輩を不思議に思い、頬に寄せていた唇を離し顔を引いて彼女を見る。
ー彼女の顔はこれ以上無い位真っ赤で、目が見開かれていた。
それを見て僕も自身の言動を振り返り一気に顔が朱に染まるのを感じた。
「あ、その、」
『なん、何で、え、』
正直驚いた。これまでにも甘いと思える言葉を掛けるようにしていたが、常に眉をしかめて冷たい目線を寄越して来るだけだった。
やっぱり涼太の言動を参考にしたのが間違いだったかと思っていたのだが(勿論本人に教えを乞うような真似はしていない)、こんな反応をされたらされたで、可愛すぎてどうしていいか分からない。
普段と何を変えただろう?
表面上は平静を装い、必死で頭を回転させる。
"どんな彼女でも好きだ"
好きだ、好きだ。
……あぁそうか。僕としたことが、肝心な"好き"という言葉を伝えた事が無かったんだ。
明確な好意を伝える言葉。それに赤面してくれるのは、少しでも期待して良いのだろうか?
「先輩あなたが好きだ、中学の時から。素直になれなくて酷い態度をとったしそのせいで迷惑を掛けたのも知ってる。それでも、あなたが欲しいんだ」
そう思ったらもう口が止まらなかった。必死に思いを伝える。
中学の時、僕の言動のせいで彼女が悪く言われる事があった。それを知ったのも彼女が引退した後で、偶々女子が話していたのを聞いたのだ。
驚いて虹村さんに聞けば、"2、3回呼び出されたみたいだけどな。相手をコテンパンに返り討ちしたらしーぜ。ま、引退してるし今は何もねぇよ。ー出る幕無いなお前"とニヤニヤしながら言われた。
本当に出る幕が無かった。後悔しても遅い。
だけどもう間違えない。まだるっこしい小細工はもうやめだ。ストレートに想いをぶつけよう。
『あああぁぁぁ、もう黙れぇぇぇぇ!!』
腰に回したままだった手をべりっと剥がされ、相変わらず真っ赤なまま大声で叫んだかと思えば、そのまま逃げようとする先輩。
「残念、逃がさないよ」
『~~~!!』
すぐにホールドして耳元で囁く。
諦めなよ、そんな反応したキミが悪いんだ。
すぐそこに迫る、初恋が実る予感に心踊らせた高校1年の春だった。