第7章 たとえばこんな幽霊奇譚~火神大我~
「……つまり貴女は、自分が何者なのかもどうしてここに居るかも分からない、という事なんですね?」
落ち着いた火神と黒子に、彼女は自分のことを語った。
黒子がまとめたように、全く情報らしい情報は得られなかったが。気が付いたらここに居た、ということのみはっきりしている。
「つーかその服うちの制服だよな?うちの生徒なんじゃねえのかよ?」
火神の口調が若干ぶっきらぼうなのは醜態を見られ恥ずかしいからだ。
それが分かっている黒子も、敢えて指摘はしないでおいた。
『うーん、どうなんでしょうね』
スカートの裾を掴み、困り眉になる彼女。
……その表情はなんというかちょっと、いやかなり可愛い、かも。
害が無いと分かった途端、現金にもそんな事を考えてしまった火神。
「とりあえず、先輩達なら何か知ってるかも知れませんね」
『!調べてくれるの!?』
「うぉっ!?……いやまぁ、その、あれだ」
「俺でよければ手を貸すぞ、だそうです」
「ッテメ黒子、勝手に翻訳すんな!!」
「ね、違うとは言わないでしょう?」
その言葉に泣きそうになりながらも微笑む彼女。
ー儚いその笑顔がとても綺麗だと思った。
『……ありがとう、2人とも。えーと…?』
「ああ、ボクが黒子で彼が火神くんです」
『私は、うーん、レイ子(仮)とかになるのかなぁ』
そう言って苦笑する彼女。
それをみた火神の中に、早く彼女の本当の名前が知りたい、ちゃんと名前で呼びたいという思いが沸き上がった。
だが、名前が分かると言うことは、彼女がもうこの世の人では無いとはっきり突き付けられるということでもある。
火神は自身の胸が僅かに軋む音を聞いた気がして、しかしそれに気が付かない振りをした。
(そんなまさか、死んでる相手に恋に落ちるなんて、)