第20章 既に貴方に夢中です ~高尾和成~
もう見ないかな、と思っていた夢は予想に反して連日とか数日の間隔で頻繁に見続ける事になった。
どうやら彼は視野が広くて、バスケではそれを活かしてパスワークを生業とするポジションについているそうだ。
彼がバスケの事を話す時は嬉しそうで、そんな心境を反映してか、半透明のバスケットボールが彼の周りに沢山出現するのが常だった。
結構ボロボロのボール達は見るたびに増えていき、きっと彼が部活で消耗したものなんだろうと考えたら、その努力の量に胸が熱くなった。
視野の広さゆえに疲れる事も多いという和くんは、私と夢で話すとスッキリすると言ってくれる。
でも、むしろ私が頑張ろうって思えるのだって和くんのおかげだと思う。
年下なのに凄いなぁって思って尊敬していた。
彼の方は数ヵ月経ってる事もザラで、その度にちょっとずつ成長している。
一昨日は中1だと言っていたが、声変わりしててそれがまた耳に心地よく響く良い声で、これはモテるなとまた内心で思ったりした。
見上げられる存在から目線が合う存在、そして遂には見あげる存在に。
そうやって大きくなっていく和くんを見ていると、微笑ましいような胸がざわざわするような感覚に襲われる。
だって聞いてしまったのだ。
"○○中学のバスケ部レギュラー?高尾くんなんて弟からは聞いたこと無いなぁ"
"一応弟に聞いたんだけど、バスケ部自体にも居ないみたいよ?"
高尾くんに聞いた中学の名前に聞き覚えがあって。
確か友達の弟が同じ中1だったと思いだし、軽い気持ちで聞いてみたら返ってきたのはそんな言葉。
確認を取ってくれた彼女は、彼がそこに居ないと言う最終通告を手渡して来た。
それを受け取って、心の芯が一気に冷えるような気持ちになった。
同時に、ちょっと大人びた男の子ってだけだったはずの和くんが、いつの間にか私の中に存在感を植え付けていると気が付かされた。
一見チャラく見えるのに凄く気遣い屋さんな所とか。
部活仲間の事を話すときの慈しむような眼差しとか。
彼のそういうちょっとした事にも目が向くくらい彼に引かれはじめていると嫌でも思知り、この気持ちは育てるべきではないと判断した。
だって彼は夢の住人だ。
好きと伝えて何かが変わる訳じゃない。拒絶されても受け入れられても夢でしかないなんて酷すぎる。