第20章 既に貴方に夢中です ~高尾和成~
次の日の夢の中、私は袴姿で道場に居た。
高校でも中学同様弓道部に入部し、丁度仮入部が終わって本入部になった日だったから、嬉しくてこんな夢見るのかな?と分析して、折角だからと弓を引くことにする。
流石夢というべきか、現実よりも真っ直ぐに的の中心に吸い込まれる矢を見て気持ちも上向きになる。
東京は弓道が盛んな地域と比べると部活自体が無い高校も多い。高校の数自体も多いから、弓道場を設置出来る学校ばかりという訳では無いのだろう。
家から近いのは秀徳高校だったけど、老朽化した弓道場は部員の減少もあり数年前に取り壊され、今では体育館になっているのだそうだ。
残念ではあるが、バスケの推薦で進学したかつての同級生が見学後に"校舎は古いが体育館の設備はまずまずなのだよ"と嬉しそうにしていたのを思い出し、それはそれでよかったのだろうと思う。
誠凛高校は少し家から遠いが弓道場を校内に有しており、近くには学生のお財布にも優しいジムがあるので筋トレにももってこいの環境だ。
勿論新設だけあって道場は綺麗だし、少人数だが先輩も居て、皆優しいしで言うこと無しだ。
ー後は、自分が努力しなくては。
私は弓を引くのが好きだ。それでも実力的にはまだまだである。
しばらく自分以外誰もいない道場で無心に弓を引いていると、ふと視線を感じた。
「、サン…?」
そちらを向くより早く掛けられた声に首を傾げる。あれ、この声って昨日のー?
『えっ、えーっと、もしかしなくても和くん、だったりする…?て言うかどうしたのその顔!!…泣いてたの?』
振り返った先に居たのは、つい確認してしまう位に成長した和くんだった。
その成長ぶりに驚いたのは勿論だけど、でもそれよりも、昨日はあんなに強い光を有していた瞳がゆらゆらと寄る辺なく揺れているのが気にかかり、気が付けば理由を問いただしていた。