第19章 空飛ぶ鷹は夢を見る ~高尾和成~
「黄瀬ぇ!!お前まだこんな所でメソメソしてやがんのかシバくぞ」
「ギャッ、もうシバいてるじゃないッスかセンパイ!!」
2人のすぐ側にある体育館のドアが開いたと思ったら出てきた小柄な女生徒。
誠凛高校の制服を身に纏うその少女は、体育館から出るなり緑間の姿を認め親しげに話をしている。
その内容から、緑間と同じ帝光中出身であることや、同級生らしい事などが窺える。
それでも、頭が混乱してその場に縫い止められたように動けなくなってしまったのは無理の無いことだと思う。
あの横顔は夢の中で何度も見ていたものだったのだから。
思えば小6の時に誠凛高校が無いと知って以降は調べること自体やめていた。設立2年目なら当時は無くて当たり前だ。
加えて制服姿の彼女を見たのも小3の時のみ。袴姿の方が馴染んでいたし。
高校受験も最初から秀徳に絞っていたから新設校の情報なんてチェックしようとすら思って居なかった。
そんな事を考えながら半ば呆然としていると、先輩らしき人に耳を掴まれ黄瀬が引っ張って行かれるのをため息混じりに見ていた真ちゃんが、ふと訝しげにこちらを振り返った。
「おい高尾、何をしているのだよ」
『…え…?』
ギャー緑間っちにさん、助けてー!!
そんな風に情けない声を挙げる黄瀬に向かってあっはは、頑張れ~と緩い感じで手を振っていたサンが、真ちゃんの言葉に釣られたようにしてこちらを見た。
瞬間黒目がちの大きな目が驚きに見開かれる。
『かずく、ん…?』
遠慮がちに紡がれた自分の名前を聞くやいなや駆け出していた。
この広い視野に改めて感謝した。
サンが手にしていて、大事なものだ、見つかって良かったと告げていたものがバスケットボールのストラップだったのが見えたから。
なぁ、それってそう言う事だろ?
違うなんて言わせねぇーよ?
「サン、みーつけた」
さぁ、何から話そうか。
文字通り夢にまで見たサンの身体を抱き締めてそう囁いたのだった。
fin
→あとがき