第19章 空飛ぶ鷹は夢を見る ~高尾和成~
『でもね、和くんは悪くないよ。言うならば和くんが人事を尽くしたから今の和くんが在るというヤツ、なのだよっ』
ちょっと妙な語尾で明るくそう言うサンに、今度は温かい気持ちで涙腺が崩壊しそうになる。
他でもないサンが、自分が悪いんじゃないと言ってくれるのが嬉しくてしょうがない。
『だから謝る必要なし!和くんの努力の過程もちゃんと見てた子ならきっと向こうから謝ってくるよ』
一緒にまた居たいと思えたら、許してあげてね。
そう言ってサンは柔らかく微笑った。
オレが何かしてしまったとすれば、調子に乗って周囲の反応を見ることを疎かにしてしまっていた、という事だ。
そう思う事で、嘘のように心が軽くなった。
注目される人物になると言うことは他と違うという事と同義だ。
特別、と概ね好意的にみられる事もあれば異質な存在として排除されるリスクも付きまとう。
況してや自分は元モヤシっ子だ。変化をおもしろくないと思う人も居るだろう。
ずっと一緒にいたヤツなら、自分だけ置いていかれるという恐怖を無意識にでも感じてもおかしくない。
『にしても和くん昨日の今日ででっかくなりすぎじゃない?一瞬誰かと思ったよ』
「え?今、何て?」
考え事をしていたから、サンの言葉を聞き間違えたかと思い顔を挙げる。
『ん?昨日の今日で、背が伸びすぎてないかって。昨日はこんなだったよね?』
そう言って自分の胸の下辺りに手を押し付けるサン。
「え、だってオレ2年ぶりにサンの夢見てンだけど?今オレ小5、前会ったの小3。バスケ始めたら結構背が伸びたわー」
『ええっ!?わ、私は昨日の晩に夢見たばっかり、ってそう言えば明日早起きしないといけないんだった…!!』
ヒエエ遅刻したら部長に消されるヤバい…!!
そう言って慌て出した彼女の姿は透けていた。
もう今度こそ会えないかも、そう思うと自然と2年前のお礼も口に出来ていた。
「サン!オレ、アイツとまた話して見る!!それと2年前も!助けてくれて本当にありがとうございまっす!!」
オレのちょっと畏まった様子に多少面食らった様子の彼女だったが、すぐに悪戯っ子のような笑顔になりサムズアップして消えて行った。