第17章 フェアリーテイルをご一緒に 赤司
軽く10秒は固まったが、それも聞こえてきた声に、半ば強引にも一気に引き戻される。
「ねぇー?なぁんか凄い音しぃひんかったー?」
「生徒会室?やっだァ、赤司くん居らはるかな!?」
「どないする?声、かけて見る?」
先程の音を聞きつけてこの部屋へ近づいてくる人間の気配。
ー不味い。
そう思い急ぎ足でドアに向かう。あまりの身の軽さに多少の目眩を感じるがそれどころではなかった。
コン、コン
(誰だい、何か用か)
「え、猫の声?」
「生徒会室に?」
ノックに答えようと口を開くが、出てきたのはにゃぁーという何とも情けない鳴き声だった。案の定ドアの前に居るらしき人物が困惑の声を上げる。
(待て、入ってくるな!)
ドアノブを捻る気配に思わず静止の声を掛けようとすればまたもやニャア!と言う鳴き声が出る。
「失礼しま~す、ってあれぇ、赤司様居らへんやん」
「あっ、猫居るよ!?」
ドア越しに会話して追い払おうと考えていたのだがそれは叶わず、あっさり侵入を許し、更に至近距離から見下ろされて不快感が募る。
しかも少女達が乱入してきた途端、噎せかえるような人工的な香りが鼻についた。
猫の身になり嗅覚が増しているのか、香水や化粧の臭いに胸がムカムカして思わず顔をしかめる。
「わっ本当やぁ!!でもどないしてこんな所に…?」
「そこ窓開いてるよ?出ようとして暴れたんやろか」
「そうかもしらんね。おーいこっち来ぃ~」
(寄るな。頭が高いぞ)
シャァァァ、と威嚇するような鳴き声が咽頭から出る。鼻に皺を寄せて牙を見せてやれば、少女達はたちまち態度を翻した。
「うっわ、何やのコイツ。折角撫でたろうっていうのに、可愛ないわぁ」
「黒猫なんて不吉やん。赤司様居らへんし、そないな野良猫放っといてもう行こや」
顔を歪め睨み付けてくる少女達に内心呆れる。撫でてくれと頼んだ覚えもないし黒猫が不吉だなんて迷信もいいところだ。
さっさと何処かへ消えてくれるなら好都合だ。人間の時もこうやって追い払えたら楽だろうに、と考えると少し笑えた。
僕の周りの女子は両極端だ。遠巻きに"赤司様"と言って勝手に憧れを募らせるタイプか、馴れ馴れしくパーソナルスペースに入り込もうとする先ほどのようなタイプ。