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Happy Days

第17章 フェアリーテイルをご一緒に 赤司


仕事は終わったし、早く体育館に戻っての顔が見たい。

だが今のこのささくれだった心境のまま向かえば、僕の心情の変化に聡い彼女の事だ、教師との間に何かあったのだと察してしまうだろう。

彼女が"そういう意味"で目を付けられた、何て知らせたくはない。彼女はきっと笑い飛ばすだろうが、なにより自分が嫌だった。

時計を確認し15分ほど休憩を取ることにし、腕を組み目を伏せた。


--------------


PiPiPi…


無機質な音が室内に響き意識が浮上する。どうやら軽く寝入ってしまったようだ。

念のためにと仕掛けておいた携帯のアラームに手を伸ばすが、すぐ前の机にあるはずのそれに何故か手が触れることはなく。

(…!)

訝しく感じながら目を開けようとした瞬間に突然の浮遊感に襲われた。

背中への衝撃に椅子から落ちたのだと知り、今この部屋に一人きりだったことを密かに感謝した。

が居たら"ぶっは赤司が転げるとかレアだ!写メ写メ!!"等と囃し立てて来ていたに違いない。

いや、それ以外の者だったら困惑し何も言えないか後から陰で噂するかだろうからいっそのように笑ってくれる方がマシか?…やっぱり腹立つだろうな。

しかしきっとそのあとちょっとぶっきらぼうに"大丈夫か?"と当たり前のように心配してくれるのだろう。

こちらの顔色を伺うでもなく同性の友人のように接してくれる彼女に、もう何度救われただろう。

ーその居心地の良さに慣れてしまって、それを失うかもしれないと思うと一歩を踏み出せないでもいるのだが。

彼女は大事で特別だ。傍に置きたいし傍に居たい。それを可能にする関係性になりたいとは思うが、如何せん色恋沙汰に不慣れなのはお互い様で、ぎこちなくなるのは目に見えている。

連々と湧く考えを軽く頭を降って追い出し立ち上がろうと手に力を入れた所で、我ながら珍しく固まってしまった。

見慣れた筈の自分の手はそこになく、目にうつるのは小さな動物のそれ。

思わずバッと眼前まで持ってきて、自分の思い通りに動くその手が今の自分の手なのだと、半ば混乱しながらも理解してしまった。

回りを見れば明らかに低い視線。倒れたパイプ椅子と散乱した衣服。

もう一度自分の手を見れば、黒い毛並みに覆われたふにふにとした肉球が存在を主張していた。
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