第12章 願う幸せ
ユナの義父となるクライス・タイラーは下級貴族だが、民衆の間では、良心的な貴族として有名だった。
妻はアルル・タイラー。
愛娘のマヤを亡くしてから、体を壊して床に伏せている。
ユナの容姿がマヤと似ているということを聞いて、会ってみたいと話していたそうだ。
タイラー家に着いて、思っていたよりも豪華な造りの屋敷に「下級貴族とは言え、さすが貴族・・・」と驚くユナ。
自分の居場所として与えられた部屋には、きれいなカーテンや素敵なベッドなどの家具が並んでいた。
今まで着たことのない、レースのついたワンピースドレスや髪飾りなどで着飾り、まるでどこぞのお嬢さまに変身した自分を鏡でみたユナは、また驚いていた。
クライスは、うんうん、と目を細めてユナのあどけない反応を嬉しそうに眺めていた。
アルルの部屋に行くと、とても歓迎され、時折アルルは目元の涙を拭っていた。
「これからの暮らしが楽しみになるわ。」
アルルは優しい笑みでユナに話す。
『・・・私もです。私は母を幼い頃に亡くしたので、お母さんが出来て嬉しいです。』
ユナは本当にそう思っていた。
両親を亡くした自分に、また父と母ができるとは思っていなかったからだ。
『もちろん、お父さんも・・・ですよ。』
そう言って、ユナはタイラー夫婦に笑顔を向けた。
「ありがとう。きみが家に来てくれて本当に良かったよ。」
クライスも目尻に涙を浮かべていた。
それからは、ユナは養子とはいえ貴族となったことにより、最低限の礼儀作法や勉学を習った。
女性としての所作、ダンスなども学んでいった。
そして、リヴァイの出した条件の一つ、地上での医療機関への受診をする日がきた。
「リヴァイ君との約束だからね。」
クライスはそう言って、待ち合い室でユナに話しかける。
「・・・私達夫婦は、なかなか子供に恵まれなかったんだ。やっとマヤが生まれて、大切に育てて・・・不運な事故で失ってしまった。アルルは気力がなくなり、部屋に閉じこもってしまったけど、ユナが来てくれて本当に良かった。最近じゃ、一緒にクッキーを作ったそうじゃないか。・・・ありがとう。」
クライスはユナの頭を撫でた。
『・・・・・・。』