第3章 姫巫女とサカキの杖
十時間以上の空の旅を終えたシオンは、ホグワーツへの入学準備のため、ダイアゴン横丁まで来た。
服装は当然巫女装束ではなく、ブラウスに膝丈スカート、上からカーディガンを羽織った年頃の少女と変わらぬ格好だ。
周囲は人が溢れ、不思議な魔法道具を売る店や、魔法について書かれた魔術書、フクロウを販売する店、箒を売る店などがたくさん立ち並んでいる。
もちろん、買い物客は全員が魔法使い。
人混みが苦手なシオンは、ただただ身体を小さくしながら、ぶつからないように慎重に足を進めた。
まずは『グリンゴッツ』へ行き、魔法界のお金を引き出さなければ。
金貨がガリオン、銀貨がシックルで、銅貨がクヌート。
十七シックルが一ガリオンで、一シックルは二十九クヌートだ。
日本円とは数え方が全く異なり、お金を払うにも手間取ってしまう。
グリンゴッツに預けられたお金は、父がシオンのために用意したものだ。
物欲があまりない少女には、ホグワーツで七年を過ごしてもおつりが出るだろう。
《ゴブリン》と呼ばれる小鬼が経営しているグリンゴッツは、ホグワーツ以外では世界で一番安全な場所らしい。
なんでも、ロンドンの地下数百キロメートルのところにあり、噂では、重要な金庫はドラゴンが守っているのだとか。
無事にグリンゴッツから魔法界のお金を引き出したシオンは、周囲をキョロキョロと見渡す。
「えっと……『オリバンダーの店』は……」
忙しなく黒水晶の瞳を動かしていると、金色の軌跡がシオンの前に現れた。
『シオンよ、こちらだ』
「月映さま……助かります」
『お安い御用よ。ついて参れ』
月映はこれまで、歴代の姫巫女と共にホグワーツで過ごした経験があり、土地勘があるようだ。
迷わずに済みそうで、シオンはホッと胸を撫で下ろす。