第3章 姫巫女とサカキの杖
やがて、一軒の店の前へ辿り着いた。
古い小さな店だ。
扉には、剥がれかかった金色の文字で『オリバンダーの店――紀元前三八二年創業 高級杖メーカー』と書かれている。
ショーウィンドウには、一本の杖が飾られており、魔法使いの杖を取り扱っているのだと分かる。
扉を開けると、奥の方でベルの軽やかな音が鳴った。
店の中には、何千という細長い杖の箱が天井近くまで積み上げられている。
どこか静かで緊張した雰囲気の店内を見ていると、一人の老人に声を掛けられた。
「杖をお求めですかな?」
ビクリと肩を震わせれば、「あぁ」と息を吐く声が耳に届く。
「……月映殿。お久しぶりですな」
『久しいな、オリバンダー……息災か?』
「何とか、老体に鞭を打ってやっております」
どうやら知り合いらしい。
オリバンダーと呼ばれたということは、この老人が店主なのだろう。
苦笑しながら、老人はシオンへ視線を移す。
「あなたがついているということは……今代の『姫巫女』様ですかな?」
オリバンダーの問いかけに、月映は『然様』と頷いた。
『シオン・リュウグウ……我が主だ。オリバンダーよ、何本も試す必要はない。あの杖を寄越せ』
「あれを……ですか?」
二人の話についていけないシオンは、ただ戸惑いながら黙っているしかなかった。
オリバンダーはシオンの利き腕を確認し、腕や身体を巻き尺で測る。
その後、少し考える素振りをして店の奥へと姿を消した。