第3章 姫巫女とサカキの杖
「だが、シオンよ。お前は気こそ弱いが、霊力と素養は歴代の姫巫女の中で、最も初代に迫る。臆するな。どこへ出たところで、お前が気後れする必要などどこにもない」
少し的をズレた父の言葉だったが、それでも、父なりに自分を勇気づけようとしてくれていると分かり、シオンは心の中で苦笑しつつ、「はい」と頷いた。
大丈夫、と自分に何度も言い聞かせる。
そこへ、「それと」と父がつけ加えた。
「恐らく、お前と同じ入学生の中に、ハリー・ポッターがおるかもしれん」
「『生き残った男の子』、ですか?」
名前を呼んではならない『例のあの人』と表現される、強力な闇魔法を行使する悪しき魔法使い。
今から二十年ほど前に、その魔法使いは仲間を集め、魔法界を支配し始めた。
魔法界でも安全な場所は少なく、彼が一目置く存在だったアルバス・ダンブルドアという魔法使いが校長を務めるホグワーツ魔法魔術学校は、安全な場所の一つ。
それから十年後のハロウィンの嵐の夜、彼はある村の家を訪れ、そこに住む夫婦を殺害した――だが、まだ一歳だった少年、ハリーを殺すことはできなかったのだ。
たった一歳で一度に両親を喪ったハリーには、『例のあの人』から受けた稲妻の形をした傷だけが残った。
その後、彼は姿を消した。
幼かったハリーは、母親の妹夫婦に預けられたと聞く。
「さよう。シオン、ハリー・ポッターとはできるだけ関わりを持つな。彼の魔法使いを打ち破ったポッターの力は、お前の比ではない。強い力は、栄誉だけでなく災いも呼ぶ。いずれは、あらゆる人間を巻き込み、避けられぬほどの大きな運命(さだめ)に直面するだろう。気をつけよ」
ハリー・ポッターの両親と父は同期だったらしい。
二人はとても優秀な魔法使いで、成績はトップクラス。
特別に親しかったわけではないと話していたが、ハリー・ポッターの両親――ジェームズとリリーが亡くなったと知ったとき、父が自室で泣いていたのを知っている。
そんな友人の息子を助けるのではなく、関わりを持たないように忠告する父。
ハリー・ポッターの運命に巻き込まれないように。
そんな気遣いに、シオンは深い愛情を感じる。
父の言葉に小さく頷いた少女は、頭を深く下げて部屋を出たのだった。
* * *