第21章 姫巫女と一年の終わり
「手紙、書いてもいい?」
「は、はい! わたしもいっぱい書きます!」
交わした言葉はそれだけ。けれど、シオンにとっては充分だった。最後に会いたい。そう思ってくれたのが嬉しかった。
ジョージも「よかった!」と言って、ギュッとシオンを抱きしめる。
「じゃあ、またね!」
温もりはすぐに去り、シオンは遠ざかる背中を見送った。一度振り返り、大きく手を振るジョージに、シオンも小さく振り返す。
『色気づきおって。我のシオンだと言うのに……』
首元に隠れるようにして現れた月映に、シオンは何のことか分からず首を傾げた。
「月映さま、見られると困るので、もう少し辛抱して下さい」
『フン。只人の中は面倒だ。シオン、さっさと――……』
そこまで言って、月映は言葉を切る。
『月映さま?』
呼びかけると、月映は小さく笑い、優しい声音で言葉を紡いだ。
『シオン、迎えだ。娘の帰りが、よほど待ちきれなかったと見える』
クククッと喉を鳴らして月映は姿を消した。
いったい何のことだろうか。そう思って首を巡らせ、シオンは大きな黒い瞳を見開いた。
たくさんの人波の中で、その人物をシオンは見つけることができた。一人だけ、シオンにとっては見慣れた和装の男性が目に留まる。
「父上!」
シオンの元までやって来た父に、少女は思わず抱きついた。ギュッと着物を握りしめ、父の胸に顔を埋める。
「はしゃぎすぎだ、シオン」
軽く窘(たしな)め、父は膝を折り、娘と視線を合わせた。
シオンにとって父は、尊敬と畏怖の対象。だが、それを取り払ってしまえば、大好きな父なのだ。
「――よく帰って来た」
力強い言葉に、シオンは「はい!」と返事をする。
「ただいま、父上!」
いつもより柔らかい表情の父が、大きな手のひらでシオンの頭を撫でる。父はシオンを抱き上げて腕に座らせ、カートを押して出口へと向かった。
「学校は楽しかったか?」
尋ねる父に、シオンは話し始めた。
友人のこと、授業のこと、魔法のこと――そして、これから先、一生 忘れることのない、ハリー・ポッターたちとの大冒険の話を――……。
《完》