第8章 姫巫女と最初の一週間
「このクラスでは、杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君も多いかもしれん。フツフツと沸く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気、人の血管の中を這い回る液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解することは期待しておらん。我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえ蓋をする方法である」
――ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより、諸君がまだマシであればの話だが。
そう、スネイプは続けた。
地下牢がシン…と静まり返る。
シオンやハリーたちは互いの顔を見合わせた。
やがて、スネイプは「ポッター!」とハリーの名前を呼んだ。
「アスフォデルの球根の粉末とニガヨモギを煎じたものを加えると、何になるか?」
突然の問題に戸惑うハリーの隣で、ハーマイオニーが垂直に手を挙げた。
薬に関わることに強い関心を持つシオンは、『薬草学』だけでなく、当然『魔法薬学』にも興味があり、教科書を読み込んだ。
そのためにシオンも答えを知っているが、スネイプの問題の答えられる生徒など、このクラスに数人もいないだろう。
もし、『魔法史』の授業でこんな問題を出されたら、答えられない自信しかなかった。
こんな問題、初めて授業を受ける生徒が分かるわけがない。
ハリーの表情を見るに、答えは欠片も出ないようだ。
シオンは机の下で『紫扇』を取り出し、スネイプに見咎められないよう小さな声で呼び出した。
「《覚(さとり)》――奏枝(かなえ)」
現れたのは、手のひらサイズの少女。
肩で切り揃えられた黒髪、桜色のリボンと着物を纏っている。
実際は小学生ほどの外見なのだが、魔力を操作してサイズを調整している。
魔力――霊力の操作は得意だ。
『姫さま、カナにお任せなのです! カナは何をすればいいですか?』
「ハリーを助けたいの。わたしが教えるから、ハリーに答えを伝えて」
『お任せなのです!』
ニッコリと笑顔で返事をし、奏枝はハリーへ飛んで行った。
* * *