第8章 姫巫女と最初の一週間
みんなが待ち望んでいた授業は、どうやら『闇の魔術に対する防衛術』だったようだ。
だが、それはあまり気分のいい授業ではなかった。
その原因の一つは、教室に強烈なにんにくの臭いが漂っていたことだろう。
噂では、クィレルがルーマニアで出会った吸血鬼対策なのだとか。
例の紫色のターバンは、ゾンビを倒した際に、アフリカの王子から報酬として与えられたのだという。
入学式の歓迎会で感じた視線は、クィレルの授業では一切感じなかった。
妙な居心地の悪さも、きっとにんにくの臭いのせいだろう。
* * *
金曜日の朝。
眠いとだだをこねるシェリルを引っ張り、シオンたち五人は大広間で朝食をとっていた。
「シオンさま。ナイフとフォーク、上手に使えるようになりましたわね」
「ありがとう、ヒマワリ」
嬉しくてにっこりとシオンが微笑むと、ヒマワリは「可愛い!」と言って、彼女の身体をギュッと抱きしめる。
「ちょっと、ヒマワリ! 朝から鬱陶しいわね!」
「まぁまぁ、マリアちゃん。いいじゃないですか、仲が良くて。ね、シェリルちゃん」
「……何でもいい……眠い……お腹空いた……」
眠りかぶりながらナイフで料理を食べようとするシェリルを、マリアが慌てて止めた。
「こら、シェリル! 目を覚ましなさい! ナイフで料理を食べちゃダメでしょ!」
この朝の光景も、段々と日常になりつつある。
同室の四人の性格も分かってきた。
マリア・クレイミーは責任感が強くて面倒見がよく、シオンたち五人の中では、リーダーのような存在。
シャーロット・ルシアーノは優しく朗らかだが、芯の強い頑固な一面もある。
シェリル・ヒルトージュはマイペースで、普段はぼんやりとしているが、興味のあることには積極的だ。
ヒマワリ・タツガミは、シオンに常にべったりで、少々嫉妬深い。
周囲と関わろうとしないのは、警戒心が強いのだろう。
同室のマリアやシャーロット、シェリル、シオンが気を許しているハリーやロンとは言葉を交わすようになったが、一週間が経とうとした今でも、それ以外の生徒とはあまり話そうとしなかった。