第20章 姫巫女と大いなる闇
「この《賢者の石》は砕いてしまおう」
「そんな……! それでは、ニコラス・フラメルさんが……!」
「ほぅ、ニコラスを知っておるのか。君たちは、しっかりと調べてここまで辿り着いたんじゃな」
《賢者の石》がなくなれば、ニコラス・フラメルとその妻は、限られた命を生きることとなる。本当にそれでいいのか。
シオンの心配も、ダンブルドアは分かったようで、「大丈夫じゃ」と微笑んだ。
「ニコラスの了承は得ておるし、身辺整理をするのに充分な《命の水》もある」
「それでも……」
死ぬことは恐ろしいはずだ。
人間の命は有限。死ねばすべてが無くなる。自分という存在が世界から消失するのに、恐怖を抱かない者はいないはずだ。
自分という意識が無くなり、自分という存在が消えた世界など想像もできないし、生まれ変わった自分が生きている様子も想像できない。
「君のような若者には、まだ難しいかな? ニコラスとベネトレにとって、死とは長い一日の終わりに就くようなものなのじゃ。きちんと整理された心を持つ者にとっては、死は次の大いなる冒険に過ぎぬ」
《賢者の石》はそれほど素晴らしいものではない。
使いきれないほどの金、死なない命。大多数の人間が何よりも欲するものではあるが、それは己の身と心を滅ぼしてしまうものだ。
そう、ダンブルドアは言った。
「そうだ。先生、教えて下さい。《賢者の石》は、どこにあったんですか? ハリーはいったい、どうやって『石』を鏡から取り出したんでしょう?」
「おぉ! よく聴いてくれた! 《みぞの鏡》を使おうとは、よく考えついたと自分を褒めたいくらいでのぅ!」
ウキウキと少年のように声を弾ませるダンブルドアは、まるで話したくてたまらない秘密を明かすように声を潜めて続ける。