第20章 姫巫女と大いなる闇
「シオン!」
「ハリーは殺させない! 月映さま!」
ハリーを背後に庇い、ヴォルデモートを見据えた。
シオンの呼び掛けに応じた金色の軌跡が素早く駆け抜け、クィレルへ向けて光を放つ。簡易の目眩し程度。けれど、それで充分だ。
シオンは扇を開き、唇を開いた。
「《ひかりふる 紫苑のなみに かおりたつ 映ゆる月光 きみのほほえみ……》」
扇の縁で指を傷つけ、舞いながら足で地面に魔法陣を描く。
ブワッと紫苑の花の香りが部屋に溢れ、魔法陣が強い光を放った。
「《古より龍宮の血脈を守る偉大なる祭神よ……我が名は汝との絆を偲ぶ"追想者"。龍宮の姫巫女の名の下に真の姿を現せ――王龍……月映》!」
『――御意』
短いその一言が、部屋の空気を塗り替える。ビリビリと剥き出しの岩壁が細かく震え、膨大な魔力に鳥肌が立った。
シオンの背後に降り立ったのは、巨大な龍。黄金の身体、額からは二本の角が伸び、大きなコウモリのような翼を背負っている。血を固めたような二対の瞳が光り、翼が動いて、シオンを守るように覆った。
「月映さま、ハリーを守って下さい!」
『姫巫女の意志は我らが総意……失せよ、闇に侵されし大いなる力――』
大きく開かれた口から月を圧縮したような光が放たれる。
『ぐわぁああぁぁああぁぁ――――――‼︎』
ヴォルデモートがのたうちまわり、苦しみの悲鳴を上げて、部屋を駆け回った。
断続的な悲鳴は、部屋中に響き渡る。そして、やがて遠くへ消えて聞こえなくなった。