第20章 姫巫女と大いなる闇
「やるもんか!」
弾かれたように、ハリーは黒い炎が燃え盛る入口へ駆けた。
「ハリー!」
身体が痛い。それでも、立ち上がらないわけにはいかない。
ハリーと、《賢者の石》を守らなくては!
『捕まえろ!』
床を滑るようにしてクィレルがハリーを追いかけ、少年の細い腕を掴んだ。
「ぐっ……」
首を絞めるクィレルの手をハリーが掴んで抵抗する――と、クィレルはハリーから手を離す。
驚いたように自分の手を見るクィレル。その手は、指に火ぶくれができ、酷い火傷を負ったように爛れていた。
驚いたのはクィレルだけではない。ハリーも、信じられないものを見るような目で自身の手を見つめていた。
「ご主人様……! 私の手が……!」
『捕まえられないなら殺してしまえ……!』
苛立つ声音で命令する主人に従い、クィレルがハリーに襲いかかる。そんなクィレルの顔を、ハリーは両手で掴んだ。
「ぎゃあぁあぁぁあぁぁ――――ッ‼︎」
喉が潰れてしまうのではないかと思うほど悲鳴を上げ、クィレルはそれでもハリーを殺そうと手を伸ばす。
しかし、それもついには力尽き、クィレルはパタリと倒れ、動かなくなった。
「はぁ……はぁ……っ」
肩で浅い息を繰り返すハリーに駆け寄ろうと、ふらつく足に力を入れて立ち上がる。
すると、おぞましい闇の色をした靄がクィレルから立ち昇り、微かに形をとった。その顔はクィレルの後頭部にいた、ヴォルデモートだ。
『寄越せ……《賢者の石》を……寄越せ――ッ!』
ハリーに迫るヴォルデモートの影に、シオンは身体の痛みを気力でねじ伏せ、身体を動かす。