第20章 姫巫女と大いなる闇
ギュッと怒りに拳を震わせるシオンを他所に、ヴォルデモートは『さて』とハリーへ視線を投げた。
『……ハリー・ポッター……ポケットにある《賢者の石》を頂こうか……』
ハリーはポケットの上からギュッと『石』を握りしめ、挑むような眼差しでヴォルデモートを見据える。
拒絶の意を示したハリーを庇い、一歩前へ出た。榊の杖を構え、左から右へ線を描く。
「《バン・ウン・タラク・キリク・アク》」
右から左斜め下、右斜め上、右斜め下……描いたのは五芒星だ。続け様にシオンは続ける。
「《この術は五行の理に沿いて、内なる闇を祓う力となる。急々如律令》!」
カッと五芒星が光輝き、ヴォルデモートごとクィレルを呑み込んだ。
「うぁあぁぁあぁぁあぁぁ――――ッ!」
空気を引き裂くほどの悲鳴を上げるクィレルを、シオンは固唾を飲んで見つめた。
これで終わってくれ。そう強く願い、杖を握りしめる。
『小娘……よくもやってくれたな……』
光が晴れる中で、ギョロリと恐ろしい眼差しがシオンを射抜いた。
「そんな……! きゃあぁあぁぁッ!」
邪悪な闇の旋風がシオンを吹き飛ばす。壁に強く背中を打ちつけ、意識が朦朧としていく。シオンはそれをどうにか気力で繋ぎ止めた。
「シオン!」
『ハリー・ポッター!』
強い口調に呼び止められ、シオンに駆け寄ろうとしたハリーは足を止める。
『余計なことは考えるな……命を粗末にすることはない……俺の側につけ……さもないと、お前もお前の両親と同じ目に遭うぞ……二人とも命乞いを死ながら死んでいった……』
「嘘だ!」
ハリーが叫ぶように否定する。そんなハリーに、ヴォルデモートはニヤリと口角を上げた。
『そうさな……胸を打たれることよ……俺様はいつも勇気を称える……。そうだ、ポッター。お前の両親は勇敢だった……俺様はまず父親を殺した。勇敢に戦ったがね……しかし、お前の母親は死ぬ必要はなかった……母親はお前を守ろうとしたんだ……母親の死を無駄にしたくなかったら……さぁ、『石』を寄越せ』
主人の意思を汲み取ったクィレルが、ヴォルデモートの顔をハリーへ向けたまま、後ろ向きに迫る。