第5章 姫巫女と最初の友達
「待って、あなたみたいなの、本で見たことあるわ。確か、東の国の……そう、蛟龍(こうりゅう)!」
『蛟龍か……まぁ、そう見えるだろうな。それで……?』
月映の問いに、少女は悔しそうに眉を寄せる。
「…………ハーマイオニー・グレンジャーよ」
『そうか。では、ハーマイオニー。次は我が名乗ってやる。ありがたく頂戴せよ』
そう言って、月映はシオンに寄った。
『我が名は月映。この娘――シオン・リュウグウの守護よ。そんなに魔法が見たいのならば、見せてやろう。なぁ、シオン?』
「へッ⁉︎ わ、わたしがですか⁉︎」
『この生意気な小娘にそなたの力を見せてやれ。ねずみを黄色に変えるなど、そなたには造作もなかろうて』
突然の指名に、シオンは杖を取り出そうとして、止めた。
魔法の呪文は教科書にいくつか載っていたが、そんなものは覚えていないし、仮に覚えていたとして、動物の色を変える魔法などなかった。
「だったら、見せてもらうわ」
挑発するハーマイオニーをちらりと見て、シオンは袖口から扇を出す。
淡い紫色の扇『紫扇(しせん)』は、シオンが物心つく前から持っていたものだ。
パッと扇を広げれば、そこには墨で文字が書きつけられている。
シオンは扇の紙で自分の指を傷つけ、指を滑らせ、流れ出た血を扇に引いた。
「……《――――――》…………」
誰の耳にも届かない声で小さく呟き、続ける。
「――《ねずみを黄色に……》」
シオンが命じれば、ねずみのスキャバーズの身体がみるみる黄色へと変わった。