第5章 姫巫女と最初の友達
「その呪文、間違ってないの?」
訝しそうに眉を寄せる少女に、シオンもハリーも心の中で激しく同意する。
「まぁ、あんまり上手くいかなかったわね。私も練習のつもりで簡単な呪文を試してみたけど、みんな上手くいったわ。私の家族に魔法族は誰もいないの。だから、手紙をもらったときは驚いたけど、とても嬉しかったわ。だって、最高の魔法学校だって聞いてるもの……教科書はもちろん、全部暗記したわよ。それだけで足りるといいんだけど……」
まくし立てるように一気に言われ、シオンは少しうんざりとしてしまう。
ソッと伺えば、ハリーとロンも同じような顔をしていた。
教材を揃えた時点で教科書には目を通したが、丸暗記などとてもできないし、しようなどとも思わなかった。
得意げに話す少女に、フッと誰かが小さく笑う。
それはハリーでもロンでも、もちろんシオンでもなかった。
『教科書はあくまで教材。そこに書いてあるのは、必要最低限のことであろう? 丸暗記したからと言って、得意になることでもない。大切なのは、教科書の外のことよ。もちろん、教科書の内容を疎かにしていいわけではないがな』
「……何なの、あなた……蛇?」
不愉快そうに眉を寄せて、少女が月映を見る。
『蛇か……まぁ、良い。無礼を許してやる。それより、名を尋ねるならば、先に名乗るのが礼儀であろう? そなたの好きな教科書には載っていなかったか? 載っておるわけはないか』
勉強より大切な礼儀だが、教科書には載っていない。
悪戯が成功した子どものように笑う月映に、少女がハッとした。