第20章 姫巫女と大いなる闇
「この鏡はどういう仕掛けなんだ! どういう使い方をするんだろう? ご主人様、助けて下さい!」
唐突に大声を上げたクィレルに、二人はビクリと肩を震わせ、動きを止めた。
ここには自分たちとクィレルしかいないのに、いったい誰に呼びかけたのか。
その答えはすぐにもたらされた。
『ポッターを使うんだ……ポッターを使え……』
ゾッとするほど低く冷たい、深い地の底を這うような声音が、クィレルから発せられる。同時に、場の空気の温度が一気に下がったような錯覚に陥った。
クィレルは「分かりました」と応じ、シオンたちを振り向き、一瞬眉を寄せる。
「お前たち、どうやって拘束を……まぁ、いい。ポッター、ここへ来い」
ギュッと唇を引き締め、ハリーがのろのろと立ち上がった。
「は、ハリー……」
「大丈夫……」
手を伸ばすシオンを、少年は優しく制する。
クィレルはハリーを引っ張るようにして、鏡の前に立たせた。
「ハリー……」
『シオン、落ち着け。機を待つのだ』
「月映さま……」
現れた金色の軌跡に、シオンの不安定に揺れる心が鎮まる。
「どうだ?」
クィレルに急かされ、ハリーは慌てたようにして言葉を紡いだ。
「ぼ、僕がダンブルドアと握手しているのが見える。僕……僕のおかげでグリフィンドールが寮杯を獲得したんだ」
そう言いながら、ハリーは自身のポケットを気にしているように見えた。
おそらく、今の回答も出任せだろう。
「もしかして……」
ハリーが鏡を見た瞬間に何かが起こった? いや、まさか――……。
「ハリー、《賢者の石》を……?」
その考えが過るのと同時に、ハリーがこちらをちらりと振り返った。
それを見て、自分の考えが間違っていないのを確信する。