第5章 姫巫女と最初の友達
「一角獣(ユニコーン)のたてがみがはみ出てるけど……まぁ、いいか」
それは、「まぁ、いいか」で済ませていいことなのだろうか。
正直、不安要素しか存在しないのだが。
そう思いながらも、シオンはロンを止めることはできなかった。
ロンが軽く息を吸い込みながら、杖を振り上げる。
「見ててね。《お……》」
そこへ、何度目になるのか。
またコンパートメントの扉が開いた。
「誰かヒキガエルを見なかった? ネビルのがいなくなったの」
今度はウェーブのかかった栗色の髪を持つ、優等生の雰囲気を纏った、やや気の強そうな少女だ。
少女は、すでにホグワーツの制服である、真新しいローブに身を包んでいる。
ネビルというのが、先ほど半泣きしていた少年の名前であることはすぐに分かった。
「見なかったって、さっき太った男の子に言ったよ」
呪文を唱えようとして出鼻を挫かれた形になったことが悔しかったのか。
ロンは少しムッとした様子で返した。
けれど、少女には伝わらなかったようだ。
彼の杖を見て、少女は目を輝かせる。
「あら、魔法を掛けるの? それじゃ、見せてもらうわ」
図々しくも居座る少女に、シオンは身を小さくした。
ロンも少女の態度にたじろぐが、気を持ち直して、「……いいよ」と返事をし、咳払いをする。
軽く深呼吸をし、意識を集中させて、ロンが呪文を唱えるべく口を開いた。
「《お陽さま、雛菊、溶ろけたバター。デブで間抜けなねずみを黄色に変えよ》!」
ロンは杖を振るが、何も起こらない。
スキャバーズは相変わらず、ねずみ色のまま眠っていた。