第19章 姫巫女と隠し扉の罠
「あんまり気は進まないけど……悪く思わないでね……」
トロールが棍棒を振り下ろそうとするが、それより早く、シオンは口を開く。
「……――《この竹の葉の青むが如く、この竹の葉の萎(しな)ゆるが如く、青み萎えよ。またこの塩の盈(み)ち乾(ふ)るが如く、盈(み)ち乾(ひ)よ。またこの石が沈むが如く、沈み臥(こ)いよ》」
凶々しい言葉がシオンの口から紡がれると、トロールはピタリと動きを止めた。そして、すぐに手にしていた棍棒を落とす。
「な、何の音⁉」
「シオン、大丈夫⁉」
ドシーンッという音に目を開けようとしたハリーとハーマイオニーを、シオンは「ダメ!」と止めた。
やがて、トロールは喉を押さえ、もんどり打ち……倒れて動かなくなった。
ここまで十秒。宣言通りである。
「ハリー、ハーマイオニー。もういいよ」
ゆっくりと耳から手を離し、目を開けた二人は驚愕した。
「シオン……まさか、一人でトロールを倒したの?」
「もしかして……死んじゃった?」
恐々と尋ねるハリーとハーマイオニーに、シオンは力なく微笑んで見せる。
「大丈夫、気を失ってるだけだよ」
八目(やつめ)の荒籠(あらこ)の呪詛――相手を病気にする呪詛だ。本来はいくつもの道具を用意しなければならないのだが、シオンは何も持っていない状態で行った。
不完全な状態で行う呪詛ほど危険なものはないのだが、シオンには《王龍》の加護がある。
それに、今回は呪詛というより、《言霊》の形でトロールに放った。
『恐ろしく不吉な言霊』を浴びたトロールは、呼吸困難に陥り、意識を失ったのだ。
シオンがハリーとハーマイオニーに耳を塞げと言ったのは、《言霊》の影響を受けないようにするため。目を閉じれと言ったのは、呪詛を使う自分を見られたくなかったからだ。
「とにかく、先を急ごう!」
「そうだね。ずっとここにいたら、鼻が変になりそうだ」
取り繕うように明るく先を促すシオンに、ハリーも頷く。